泣いてると、色んな事を思い出す。 辛い事、寂しい事、悲しい事… そうやって思い出していく内に、 どうして泣いていたのか分からなくなることもある。 終わりにしたい。 その言葉の意味が、少し…ほんの少しだけ、分かった気がした。 「…でさ、協力するけど…これからどうするの?」 翌朝、皆で朝食をとった後…いや、レイは席を外していたが。 サンは言った。 「エンプティナを目指す」 昨日の泣き顔をほんの少し引きずっているサンを見ながら、レイが返す。 それを聞いていたのか、サティが後ろから声を掛けてきた。 「エンプティナ? あそこって何も無いって有名じゃないか。  だからあんな名前が付いたんだろ?」 空虚の意味を持つエンプティを地名化したというのが、 エンプティナの名の由来だった。 「あぁ…実際は、朽ちた神殿がある。原型もとどめていないが」 観光地にすらならない神殿は珍しく、違う意味で有名な地だ。 もっとも、砂漠並の乾燥地帯な上に寒く、何もないような地が観光地にも ならないのは当たり前であったが。 「そこに俺も行けばいいんだね」 わずかに顔をきらめかせ、サンが言った。 「あぁ」 レイはそれに短く答える。 まだ少しだけ、後悔があった。 この少年を巻き込んでいいのだろうか… 最悪、彼までも自分と同じ運命にしてしまうかも知れないのに… しかし、レイは心の中で首を振った。 信じよう、賭けてみたい…そう思ったから。 「私は、悪いけど遠慮させてもらうよ」 唐突に、サティが言った。 「えぇ!? でも話を聞いたんだから、行かないと…」 「構わない。お前には今、共に働く者がいるからな」 サンの言葉をレイが遮る。 「あぁ。とにかく、ここの建物は完成させないといけないからね。  その後で助けがいるってんなら、何処へでも駆けつけるよ」 言いながら、彼女は胸の辺りから石の付いたペンダントを取り出した。 深い青緑に輝くそれを、サンの首に掛け、続ける。 「この石は…サンは知ってるね?  私との連絡兼、私のワープ先…私は瞬間移動が出来るんだよ」 レイに向かって親指を立て、にっと笑う。 「なるほど…協力はするということか」 「そ。私は約束は守るよ。まぁ私の助けが必要ないことを祈るけど」 少し苦笑して、続ける。 「2人とも、気を付けて行くんだよ。サンはあんまりレイに迷惑かけない事!  レイもあまりに無茶な事はさせない事! いいね?」 そこまで言うと、現場からサティを呼ぶ声が聞こえた。 指示が必要な様だ。 「じゃ、また! しっかりね!!」 大きく、空に突き出すように手を振ると、サティは現場に駆けていった。 「うん、それじゃあ!」 サンも大きく手を振り、 「行こう、レイ!」 そう言って歩き出した。 レイもその背を追う。 そして、2人の旅は始まった…。 「旅…って言ってもさ、どうするの?」 エリオットの商店街を歩きながら、ぼそっとサンが言った。 レイ、サン共に文無し、武器もなし。 レイはともかくとして、サンが旅をするのは不可能に近い。 「働きながら行くしかないのかなぁ」 言ってはみるが、その内容はあまりにも無理があった。 しかし、せめて武器くらいは欲しい…。 武器があれば何とか、野生の動物でも狩って食べていける。 実際、サンはそんな経験があった。 サティの盗賊団に加わる前は孤独にスリをしていたが、 時にそれが嫌になると…手持ちの短刀で狩りをすることがあったのだ。 「道々の家に泊めてもらったらどうだ?」 ブツブツ言っているサンに、レイが言う。 それを聞いたサンは驚いたような、そして半ば呆れたような顔をした。 「はぁ!? そんなん普通泊めてくれねぇよ!  大昔じゃあるまいし…」 言いかけて、そういえばレイは何歳なんだろうと疑問に思った。 連鎖して、一体どれくらいあの地下牢にいたのか、何をして捕まったのか、 捕まる前は何をしていたのか…。 そんな疑問が湧いてきて、どれから聞こうか迷っているうちに、レイが口を開いた。 「…気になるか?」 恐らく表情から読みとられたのだろうが、まるで心中を全部見られているようで、 どうにも気味が良くはなかった。 「あ、あの…」 一番当たり障りのない物から聞こうと、必死に考える。 一瞬間をおき、やっと決まった。 「あのさ、レイは…何歳、なの?」 しどろもどろだが、言ってみる。 その質問を聞くと、レイは空を仰いだ。 「…確か…あの城が出来て間もなく牢に入れられて…  当時は16だったから…430ってところか?」 視線は相変わらず上方を見ながら、しかし顎を引いて手を当てながら レイは答えた。 どことなく自信なさげな声なのは恐らく、数えてなどいなかったからのだろう。 「よんひゃくって…俺にとってはかなり未知な数字だよ」 やや自嘲気味にへらりと笑うと、次の質問に移った。 「ねぇ…嫌なら答えなくても全然いいんだけど、レイって何して捕まったの?」 さっきの笑顔をやや引きずって、聞いてみる。 と、レイの顔から表情が消えた。 もともと大して「表情」と呼べるようなものはなかったが、そういったものがかき消えた。 マズイ事聞いたかな… そう思うが、言ってしまった言葉は引っ込められない。 険しい目つきで地面に目をそらすと、ボソッと言った。 「…言いたくないから言わない」 「あ、そっか…ごめんね」 言いたくないと言ってくれて助かった。 これ以上の質問は危険と考え、次の話題を探し始める。 「ねぇ…これからどこに向かっていくの?」 やっと見つけ出した話題…というか、コレしか見つからなかった。 これなら避ける理由も無いし、お互い知っておいた方がいいだろう。 しかしこの話題が終わったらと思うと、次は思いつかなかった。 「…北」 サラリと答え、終わってしまった。 …かに見えた。 「エンプティナは北の大陸にある。この大陸最北の港に行って、  そこから船…というのが妥当だろう」 頭に地図を思い浮かべながら話すレイ。 と、突然サンの顔が輝いた。 「船!? 俺、船って乗った事無いよ! うわぁ、楽しみー!」 「…酔うんじゃないぞ」 呆れたような横目で言い、続ける。 「北の大陸の中央部にエンプティナがある。知ってるとは思うが、  その辺りはとてつもなく寒い。それから…」 レイは言葉を切った。 サンがあまりにも船の話を気にしているので、話しても無駄だと判断したからだ。 楽しそうに船の想像をしているサンを、止める気にはなれなかった。 進展無いねぇ(マテ 次回辺りから色々、バトルとか取り入れたいと思います。 バトル書けないけどさ(致命的 んー、どんどんセリフ密度が増えてますね、いかんいかん。 シリアス以外の場面で一人だと文章入れやすいんだが(入れなきゃ独り言だ どーもサンが入ると…バカに(死