恐かったのかも知れない。 知られて、避けられて、傷つけられて、最後はまた一人になる。 それに怯えていた。 いや、今も怯えている。 でも、やっと見つけたのかも知れない… 僕の鳥を。 夜になり、大工仲間の人たちと一緒に夕食をとっていた。 とても美味しいが…レイだけは全く何も口にしようとしなかった。 「あれ、そんなに見事に嫌いなモンばっかりだった?」 参ったな、と言うようにサティが謝る。 「ゴメンね、アンタの好み聞けば良かった」 それを聞いて、レイは顔を背けた。 「いや…嫌いじゃない」 「じゃあ何で食べないの?」 隣で鶏肉をかじっていたサンが、その手を休めて尋ねる。 「…食欲が無いだけだ」 レイはそう言って、席を立った。 その後ろ姿を見送りながら、サティは 「そんな訳ないだろ、隣の城からどれくらいかかると思ってるんだ」 と呟いたが、どうやら聞こえていない様だ。 外は少し風があった。 誰も居ない暗闇にいると、落ち着くような、少し寂しいような感覚がする。 背後のテントから聞こえてくる声が、寂しさを強めている気がする。 突っ立っているのもなんなので、建設中の建物の玄関に座った。 そして、星を眺める。 …言っても良いような気がする… …受け止めて、助けてくれる気がする… …都合の良い幻想かも知れない、また傷付くかも知れない… …でも… たたっ、と軽い足音がした。 ぼんやりと逆光だったが、それが走ってくるサンだという事はすぐに分かった。 その後ろからサティも歩いてくる。 「人が多いのがダメだったのか?」 サンが気まずそうに言う。 「丸一日何にも食べてないんだから、食欲ないなんておかしいよ!  もしかしたら病気か何かかも…」 「そうだよ、ちゃんと食べないと倒れるよ!」 サンの言葉にサティが後押しをする。 それとも本当に嫌いだったのかという不安げな表情も浮かべていた。 流石にこれじゃあ気まずい。 「…サン、僕は昨日、牢屋で夕食を食べていたか?」 やれやれ、と言うようにサンに話し掛ける。 「ぇ…えーと…食べて無かった…あ!」 「そういうことだ」 ため息混じりに言った。 …しかし 「お頭! レイきっと昨日も何にも食べてないよ!」 「そこでボケるな!!」 レイのツッコミがきまった(? 辺りが静まる。 「僕は…食べなくても生きていける体だ」 おもむろにレイが言った。 「は? どういう事…」 「聞くなら、今後僕に協力してもらおうか」 サンに鋭い視線が刺さる。 困惑気味の表情を浮かべ、それからサンは言った。 「うん、いいよ。俺に出来る事なら手伝う! だから教えて」 にこっと笑って、レイを見る。 その視線から逃げるように目を地面にそらすと、小さな声で言った。 「僕は…死なない体なんだ」 言ってしまった…そう思った。 もう避けられるのは慣れている…逃げるなり何なりするだろう。 でも、恐れている。 早く答えが欲しい。 この沈黙が嫌だった。 「あ、そうなんだ」 返ってきたのは、そんな軽い言葉。 「不死身の人間か…初めて見たね」 サティも感心したようにレイを見つめる。 おかしい。正直、どこか頭のネジ数本飛んでるんじゃないかと思った。 今までは誰も、こんな反応は示さなかった。 似たような言葉を掛けられた事もあった。 しかし、こんな平然としたものではなく、明らかに動揺や恐怖が、そこにはあった。 恐れないで、くれるのだろうか…? ただ演技が上手いだけではないのだろうか…? 「…恐れない、のか?」 視線を…何故かサンに向けて、聞いてみる。 「だって、レイ別に恐くないじゃん。死んだって死ななくたって、そんなの関係ないよ」 またしてもサラリと返された。 その目には恐らく偽りはなく平然としていて、わずかに優しい笑みを浮かべていた。 「僕は…恐れている」 ぎゅっ、と胸が痛む。 そう、この身が恐ろしい。 明らかに不自然で、他と違っていて、大きな孤独感。 今まで体験した数々の別れ、もう数える気にもならない。 思い出したくもない。 「僕が協力して欲しいのは…この身体を死ねるようにすることだ。そろそろ、終わりにしたい」 見つけたのかも知れない、僕の鳥を。 僕の魂を空へと誘ってくれる存在を。 しかし、鳥は…サンは、驚いたような表情をした。 「どうして死にたいの?」 普通の人間から見れば、至極当たり前の疑問。 サティはその後ろで、複雑な表情をしている。 恐らく、彼よりも少しだけ…終わりにしたい訳が分かっているのだろう。 「生きてるの、楽しいよ? 沢山笑って、いろんな人見て、お日様の光浴びて、月見て、風に当たって…」 驚いた表情から、そうやって羅列していくうちに…サンの表情は悲しそうになっていった。 声も少し震えている。 「どうして、死にたいの? レイが死んじゃったら俺、悲しいよ…」 ついにサンの頬に、ぼろっと大粒の涙が伝った。 嗚咽はしていないが。 「…サン、生きてるとさ…辛い事もあるんだよ。誰か仲良い人が死んじゃたり、痛かったり苦しかったり。  それは身体が感じるのだけじゃなくってね、胸がぎゅーっと痛くなるんだ。それがあんまりひどいと、  生きてるの…嫌になっちゃうんだよ」 サティが言った。 悲しそうな表情だったのはきっと、今までの悲しみを思い出したからだろう。 サンは頬を伝う涙を手の甲ではらい、それでも納得いかないという顔をしていた。 「だって、楽しいことも沢山あるじゃん!」 半ば叫ぶように言うと、小走りでテントの方へ戻っていった。 しかしテントには入らず、影になったところでしゃがみ込む。 …恐らく、また泣いているのだろう。 「誰かと出会って楽しいと…いつか必ず別れが来るんだ。相手が一方的に居なくなって、追う事も出来ない。  だから、全てとの接触を断ったというのに…分からないのか、あのバカは」 呟いて、また痛む胸に拳を作った。 「そういう子なんだよ…」 サティはそう返した。 「アンタの気持ち、良く分かる。私も何人か、大切な人亡くしたからさ…。もう死にたいって思ってると、  いつもあの子が私の肩を叩いてくれた…。大丈夫だ、って。また笑える日が必ず来るからって。  そうやって励ましてくれたんだ。だから私は今、ここに居るんだよ」 レイの隣に腰掛け、肩に手を回す。 「でなきゃ、私なんて弱っちいからさ! とっくの昔に死んでたよ」 レイの頭を掻き回すと、彼女はすっくと立ち上がった。 「さーてと、あのバカを泣きやませに行かなきゃね!」 きゃーなんかとてつもなくはずい!!(死 ていうか臭い! 異臭だよ!!(? レイもサンも私の1面なんだと思うとおかしいなーと思う。 言ってる事が正反対ーだめだこりゃ。 前回よりちと短いかなー。 まぁいいや。 多分1話と同じくらいだろう。 あとがき(?)でスペースとろうなんてしてませんよ(ぉぃ